落書き付随想録

うさ絵草紙 2 私の顔は一個のうさぎ

実は大ケガをしたのでした。しかも顔に。

傷がふさがるまでは、バイキンが入らないように気をつけないと、本当に恐いことになるよ、とお医者さまにおどかされましたので、せいちんに頬ずりができなくなってしまいました。

でも、せいちんが寂しい思いをしないようにと、できるだけナデナデしてあげたのです。でも、せいちんは何だか不満そうでした。座っている足元に来て足を盛んにツンツン、何かの信号を送ってくるのですが、撫でてあげてもすぐに飽きて向こうに行ってしまいます。遊びたいのかな? 追いかけても乗ってきません。ハハ〜ン、カクカクかい。行っちゃった。ちがうみたいですね。

そんなある日、鏡を見たら傷がすっかりくっついていました。やった〜! これで顔も洗える、髪も洗える、せいちんにスリスリもできるんだ!

久しぶりにせいちんのおでこにアゴを乗せてみました。すごい振動です。何でしょう。何ということでしょう。せいちんは、喜んですごい勢いで奥歯をゴリゴリ擦り合わせているんです。ああああああ、やっぱり手で撫でるだけじゃ物足りないんだ。

せいちんのお腹が変形するくらいギュウと頬っぺたを押しつけて、せいちんの横に寝そべってみました。せいちんはますますゴリゴリやっています。顔でせいちんの顔や背中をナデナデしました。せいちんは、うるうるした目をつむって気持よさそうにしています。

ふと、せいちんは怒濤の勢いで私の顔を舐めはじめました。お互いの衛生上、口は舐めてもらいませんでしたが、鼻や頬や、おでこをずいぶん丹念に舐めてくれます。そうして舐めているせいちんの顔を薄目を開けて見ると、これまた至福の表情です。

うさぎは、舐めて舐められて、プライバシーを侵害しながらくっついて寝て初めて安心できるんですね。せいちんがずっと訴えたかったのは、これだったのでしょう。せいちんとつきあう時、私はずっと自分の顔を一匹のうさぎに見立ててきました。顔をせいちんの目線まで下げて初めて、せいちんを呼ぶことができるからです。

せいちんのぬくもりを顔一面に感じながら、せいちんはせいちんで、大きな付属物のついたうさぎと寄り添って寝ているつもりでいたのでしょう。

せいちんにうさぎのお友達をあげられないからには、私ができるだけうさぎ仲間になってあげるんだ。



自画像というわけではありません。